君に届け
「え…?」
案の定、憲介は驚きの表情をあたしに見せた。
「あっ…だから、無理して下の名前で呼ぶより、今まで通りの方がいいかなって…
あたしも正直、そっちの方が呼びやすい。変な気遣いしちゃうし…」
付き合うからって、いきなり態度は変えなくていいんじゃないかな…?
特に、あたしたちはバレたらヤバい関係だし…
ぎこちない感じを続けちゃうと、勘の鋭い人にはバレちゃいそうだしね。
「そう…だな。
俺もさ、正直今までの方が呼びやすい…かも?」
あたしは、池澤に幸村って呼ばれる方がしっくり来るような気がする。
逆も同じ。
池澤って呼ぶ方が、緊張もしないし…
なにより落ち着く。
「じゃあ、帰ろっか。幸村…」
「うん。」
池澤が先に歩き始め、あたしも小走りで後を追った。
池澤に追い付くと、隣に並んで歩いた。
「…!」
さっきからずっと、驚きっぱなしだよね…あたし。
池澤は隣で歩くあたしに笑いかけると、あたしの手を握った。