君に届け



「て…めぇ…!」



刺されたと思った。
でも、痛みは襲って来ない─



代わりに聞こえた男の声。
あたしは恐る恐る目を開けてみた…



「…!!」



あたしの目に見えたのは、あたしとナイフを持った男の間に入って、素手でナイフを握りしめる人─



「…幸村、俺…言ったよな?お前を…守るって。」



「池澤…!」



さっきまで侑隼と綾芽の後ろにいた池澤だった─



ナイフを持った男も予想外の出来事に目を丸くしている。



「この命にかえても…お前だけは絶対守ってみせる。」



池澤はそう言って、ナイフを握る手に力を入れる。



手から腕を伝って流れる真っ赤な血─



「なんで…なんでそこまで出来る?1人の人間を守る為に命をかけて…」



「なんでだろ…?俺にもよくわかんねぇんだよ…」



侑隼の問いにそう答えると、池澤はあたしの方を向いて笑いかけた。



「……?」



「強いて言うなら…その人を大切に思う気持ち…かな?」






< 180 / 282 >

この作品をシェア

pagetop