君に届け
とは言ったものの…
俺は自分の手がどうなってんのかを忘れてた─
どうしよう…
「あ…池澤、そんな手じゃ切れないじゃん…」
いくら怪我が左手と言えど、包丁を使うには片手だけでは足りない。
幸村もそれに気付いたようだ。
「あたしがやるから、池澤は何もしなくていいよ。座ってて?」
「でもさ…」
「言うこと聞けない?怪我悪化してまた病院行ってもいいの?」
なんか今日の幸村、いつもと違う気がする…
「聞きます…」
俺はこう答えるしか、道がなかった─
病院は嫌だ…
涼哉の顔は、出来ればあまり見たくない…
「じゃあ俺…ここで見ててもいい?」
「え…別にいいけど。」
幸村の承諾を得て、俺はここにいることにした。