君に届け
「愛奈はもう…俺たちの前には現れない。いないんだよ…」
見ると、葛城先生の胸ぐらを掴む池澤の手は震えている。
「わかってる…はずだろ?なぁ…先輩…?」
「……………」
葛城先生は黙ったまま、池澤の目を見ていた。
池澤は胸ぐらを掴んでいた手を離し、拳を握りしめる。
あたしは、そんな2人の姿を見ることしか出来ずにいた。
「イケ…」
しばらく沈黙が続いて、葛城先生がようやく口を開いた。
「わかってる…愛奈はもういない。でも…いつか、また現れるかもってバカみたいに思ってた…」
「先輩…」
この2人の傷は、計り知れない程に深いのかもね…
愛奈さんを失った。
でも、その現実は信じたくない。
そんな時、愛奈さんに似てるらしいあたしを見た…
嫌でも思い出すよね…