君に届け



スーツ姿の男の人─
だった。



ズボンのポケットに手を入れたまま、横目であたしを見下ろす。



「お前…新一年生だろ?早速サボリか?」



低い声で言うその人。
あたしは、服装と口調で彼が教師であることを悟った。



「そうだけど…?」



半ば開き直りを見せ、あたしは答えた。



「やけに素直だな…お前、名前は?」



「幸村。幸村 穂波…」



「そうか…俺は池澤 憲介【イケザワ ケンスケ】。この学校の、数学講師。」



あたしの名前を聞いて、彼は自分を名乗った。



池澤…






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