君に届け



声がして、俺はゆっくりと顔を上げた。



「幸村…」



そこには、イケを任せたはずの幸村が立っていた。



「先生…あたし、池澤に酷いこと言ったかも…」



「えっ?」



訳の分からないことを言う幸村に聞き返す。



「池澤、すごく落ち込んでた…愛奈さんのことを思い出してたんだろうけど、自分を責めてて…

あたし、愛奈さんの苦しみに気付けなかった池澤が悪いって言っちゃった…」



薄く笑いながら言う幸村は、どこか悲しげだった。



「いや…元は俺が悪い。話すタイミングを間違えたかも知れない。イケを傷付けたのは俺だ。責任は俺が取るから…お前は帰れ。」



「でも…」



「任せろ。大丈夫だから…遅くなったらご家族が心配するだろ?」



俺は幸村を説得し、家に帰るように促した。



幸村は最初は渋ってたけど、俺の説得に応じ、下駄箱に向かって歩いていった。



さて…行くか。



俺は幸村を見送った後、元来た道を引き返した。







< 62 / 282 >

この作品をシェア

pagetop