君に届け
声がして、俺はゆっくりと顔を上げた。
「幸村…」
そこには、イケを任せたはずの幸村が立っていた。
「先生…あたし、池澤に酷いこと言ったかも…」
「えっ?」
訳の分からないことを言う幸村に聞き返す。
「池澤、すごく落ち込んでた…愛奈さんのことを思い出してたんだろうけど、自分を責めてて…
あたし、愛奈さんの苦しみに気付けなかった池澤が悪いって言っちゃった…」
薄く笑いながら言う幸村は、どこか悲しげだった。
「いや…元は俺が悪い。話すタイミングを間違えたかも知れない。イケを傷付けたのは俺だ。責任は俺が取るから…お前は帰れ。」
「でも…」
「任せろ。大丈夫だから…遅くなったらご家族が心配するだろ?」
俺は幸村を説得し、家に帰るように促した。
幸村は最初は渋ってたけど、俺の説得に応じ、下駄箱に向かって歩いていった。
さて…行くか。
俺は幸村を見送った後、元来た道を引き返した。