君に届け
池澤の笑顔を見て、思わずあたしも笑顔になる。
「池澤…」
「ん?」
「あたしさ、今日で数学に関しての考え方が変わった気がする…数学って、楽しいね。」
「そっか…そう思えるようになったら、もうすぐに数学好きになるよ。俺としても、そんな子が増えてくれるのは嬉しいな。」
そう言って、池澤は参考書を閉じた。
「もう時間遅いし、今日はここまでにしよう。お前が帰り遅かったら、家族が心配するだろ?」
「………」
「幸村?」
心配なんて…
『あの人』はしない。
ましてや、家にいることなんて滅多にない…
どうせまた男とその辺で遊んでるに違いない。
「幸村、どうした?送るから帰ろう。」
池澤は、あたしの思いなんて知らずに立ち上がる。
「…やだ。」
「え…?」
「家になんか…帰りたくない。」
帰りたくないよ…