君に届け
どうせ帰ったって、あたしは1人なんだ…
『あの人』が待っていたことなんて、一度もない。
「どうした?帰りたくないって、家族と喧嘩でもしたのか?」
「ううん。そうじゃない…家に帰っても1人だから…」
「1人って…お前、1人暮らしじゃないよな…?」
「うん。一応、お母さんと暮らしてる。」
本当は『お母さん』なんて呼びたくもないけど…
「お母さんいるのに1人って、どういうこと?」
何も知らない池澤は、あたしに質問してくる。
「あの人、水商売やってるの…だから。」
そのことが原因で、お父さんと離婚した。
あたしはお父さんと暮らしたかったけど、その頃お父さんは、仕事で大事なプロジェクトがあるとかで海外に出張だったから一緒に暮らせなかった。
「あたしはあの人が嫌い。数学よりも…この世で一番嫌い…」