*torn
 この奇跡を、ここで終わらせるなんて、もったいなさ過ぎる。
 彼と、わたしの人生が、交差する瞬間が来るだなんて。
 しかも、こんなところで。
 これは、夢?

 クラクションを、鳴らす?
 ほんの、ほんの一瞬、だけだから。
 鳴らすか、鳴らさないか、の、微妙なところで。
 そう思っただけで、指が、震え始める。
 わたしに、そんな芸当が、できるのだろうか、とさえ思い始める始末。
 実際、クラクションを鳴らすのは、苦手だ。

 わたしは、ステレオの音を、少し上げた。
 車内に、彼の声が充満する。
 
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