とびだすえほん
「君の探し物はみつからないのかな?」

おじいさんは繰り返した。

「ここにはありませんでした。」

ぼくは正直に答えた。

「そんなに簡単に諦めてしまっていいのかね」

おじいさんの咎めるような口ぶりに、ぼくは少しムッとした。

諦めるも何も、ない物はしかたがない。

「どこかよその……本屋さんでさがしてみます」

「そこらにあるものならばね。でも、君にはそれが普通の店にはないことが分かっているから、ここに来たんだろう?」

灰色ヒゲの仙人は、訳知り顔である。

「言ってごらん、君の欲しいものを。探しても探しても見つからない宝塚を」

ゆっくりとした口調のその言葉は、まるで魔法の言葉のようだ。

−言ってごらん、君の欲しいものを。探しても探しても見つからない宝物を−

頭の中を言葉が巡る。

言葉とともに思いも巡る。

巡り巡って、ぼくがそれをさがす事になった夏の日へと、思いがさかのぼる。
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