僕の中の十字架

先生が、今度は隣の子の絵を覗き込んだ。


「………」


先生はそれを一秒の四倍くらい見つめ、


「…………。野田さん」

「………はい」


先生は隣の野田さんの絵を手に取った。


「……これは、何?」


震える声で訊いた。
明らかに怒っている。


「えっと、先生が、自由に描けって、言ったから……」

「何を、描いたの?」


野田さんは先生から目をそらし、机の天板に視線をおろした。

先生の様子に、辺りの児童達も気付いて、ざわざわと声をうみだした。

野田さんは、今にも消え入りそうな声で、



「“家族”を、描きました……」




何故?

ぼくは不思議に思った。
多分、皆同じだった筈だ。

家族を描くなんて、微笑ましいことこの上ない。それを、先生は何故ここまで怒る必要があるのだ。


「………」


先生が、野田さんに何か言いかけた時、チャイムが鳴って授業が終わった。







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