僕の中の十字架

何時もは弱々しくて、女みたいな奴だと思っていたけど、こうしてるとやっぱり男性であることがよくわかります。


自分の頭を優しく撫でる手の大きさだとか、呼吸する度に少し上下する筋肉だとか鎖骨だとか、明らかに自分のとは違うものでした。



しばらくして、富士原さんがもう一方の手で北村さんの右腕を引っ張りました。



そして二人の間には一ミリも隙間が無くなりました。


同じ心臓の音。
胸の両側で鳴ってる。

言葉にしなくても、こんなに簡単に伝わるものだったんだ。





「ね、順子さん」


「ん?」


「それって、ボクが好きって事ですか」



耳に富士原さんの息がかかって、北村さんは体の何処とも解らない所がじんと痺れるのが解りました。


嫌悪や苦痛ではなく、全身の余分な力が抜けるような心地良さでした。



「―――うん」


「本当に?」


「―――うん」


「少しでもいいから、ボクの近くに居てくれませんか」


「―――うん」


「キスしていい?」


「―――うん。………――うん?」



思わず顔を上げると、富士原さんのイタズラっぽい笑みがありました。



「いいの?」


「ぬぁ――う!」



OH・マイ・ガーット、とでも言う様に額を叩く北村さんでした。


その様子を見て、



「ボクとキスするの、嫌?」


「いいいいいや、いやいや!――じゃなくて! い、嫌なわけでは、………ないんだけども………」



スキルである子犬の表情で哀しげに訊く様子に、めちゃめちゃテンパる北村さん。まぁ最終的には尻切れトンボ。



「本当? していいの?」


「ぬぁ―――う! ……ううう………うう〜〜ん………ぬぅ…………ぬぁ――う!」



どう答えるべきか悩みまくって悶えてしまいます。



「どう答えたらいいか、解んない?」


「解んない」


「そういう時は、“うんっ!”って言ったらいいんだよ」


「うんっ!―――……あ」



はいひっかかったー。




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