僕の中の十字架
「母ちゃん?――――なんでいつも何も言ってくれないの?」
彼女は母親に無視されるのは慣れっこだった。
いつも自分が悪かったのかと、いつも自分を責めた。
自分だけが不幸だ、なんて思考には至らなかったが、彼女は何時しか、他人が母親と同じ様に自分を無視するのでは、と怖がるようになった。
例え外面だけ良い母親で、自分に辛く当たってきたとしても、サエには一人だけの母親で。
サエは母親に安心できなかった。
サエは母親に恐怖をもらった。
でも、大好きだから。
「…………無視、しないでよ………っ!」
だから、泣きたくなる。
「なんでいつも、そんな、無視するの……?わたしがそんなに嫌い?」
どんなに頑張っても、どんなに笑って見せても、なんでいつも、無視するの。
「きっと、母ちゃんも辛いこと、沢山あるだろうけど………それをわたしにぶつけないでよ」
ピンクのバスマットの上で座り込み、膝の上にぽたぽたと涙を落としながら、更に続けた。