僕の中の十字架



―――――――――
――――――
―――




「………んぅえ?」



変な声を出しながら頭を持ち上げた。



「あれぇ?」


「おはよう」



顔を上げると、北村さんの無表情が目に入った。



「なんで?―――ぼく……っ」



体を起こそうと手に力を込めた。


手を見た。


自分の体を見た。



「なんで、ぼくは血まみれなんですか?」



なんで両手が真紅に染まっているんだ。

体は完全に無傷だ。



「知りたい?」



北村さんは相変わらず無表情だ。



「後ろに答えがあるよ」





富士原さんがぼくの後ろに居た。

ぼくが振り返ったのに気付き、左に移動してその先にあるものを見せてくれた。



「―――ひっ! ……――――ぐっ」



それを確認した瞬間、胃の底がカッと熱くなって、ぼくは口を押さえた。


気持悪かった。


両手の紅が遠く感じた。




紅―――………血の紅だ。






この紅はぼくの中にも流れている。
太い血管や細い血管に。



でも、これはぼくのじゃない。





あそこにいる人のだ。








風呂場の椅子に座り、両足を投げ出し、腕を浴槽の中に入れている。



浴槽には水が溜り、手首から先は水につかっている。






















その水は真紅に染まっている。













.
< 131 / 133 >

この作品をシェア

pagetop