僕の中の十字架



足元には果物ナイフが落ちており、其処の周りにも血溜りが出来ている。



「なんで………」



何度目かの「なんで」が口をついて出てくる。自然に息が荒くなる。



「覚えてないの?」



目を合わせる様にしゃがんで、何故か混乱した表情の富士原さんが訊いてくる。

覚えてるも何も、今日朝からの記憶が一切思い出せないのだ。



「なんで、サエのお母さんが、死んでるんですか!」



彼女の手首から肘にかけて、斜めに大きな切傷があった。



紅く皮膚が裂けた様な傷の大きさと、中の筋肉やらが見えている事で、何れ程深い傷かは容易く理解出来た。


リストカッターでもこんな切り方しない。

普通、自分には出来ない。



おばさんの血液は、ほとんど水にとけだしたのだろう。



「誰が、一体こんな……! 自分で、………おばさんがやったんですか!?」



戸惑い顔の富士原さんに訊いても顔を背けるばかりで、ちゃんと答えてくれない。



北村さんを見た。



「君よ」



穏やかな表情で、穏やかに告げた。


ぼくが?

ぼくがやった?

何を?



「両手が血まみれじゃないの」



北村さんの静かな言葉に、心臓が止まった。




確かに、ぼくだ。





ぼくがサエのお母さんを殺したんだ。














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