僕の中の十字架
〈Venus〉
瞼を少し開けると、安物の遮光カーテンの隙間からはいりこんだ朝の光で目がくらんだ。990円の、本当に安くてお得なカーテン。遮光、のはずだが。
何処が遮光?
どう遮光?
……透けてますけど?
遮れてませんよ、光。
何か?
………。
何かって、何がだ。
僕は寝返りを打って、枕元の目覚まし時計を見た。
「……………」
遅刻寸前で、「やっべー!」なんてイベントは起こらず、時刻は午前5時半。
………年寄りかよ。早起きしすぎだ。
上半身を起こし、ボリボリと頭をかきむしった。地肌にじんわりと汗を感じた。
着ていたTシャツも、汗を吸って肌に張り付いていた。
とても恐ろしい夢を見ていた気がする。
でも思い出せない。
ふと気付く。
シャツの首もとに、紅い染みがある。
見れば枕にも、布団にも紅いものがべっとりと付いている。
鼻に手を当てると、生暖かい感触があった。それも紅かった。
鼻血か。
ぼく、寝ながら鼻ほじったのか?
っていうか、よくもまあこんなに出て死ななかったな。
新記録だ。
………感心してる場合かっ。
服を脱ぎ、トランクス一枚の凄く情けない格好でベットから床に足を下ろす。
ティッシュで鼻を拭いて、適当に服を着て、ランドセルの中をチェックして、汚れた服を洗濯物に出して、やることがなくなった。
「………………」
何時もより早く起きたというのに、全然眠くない。
とりあえず、部屋のカーテンを開けた。
ぼくの部屋の窓は東と南にひとつずつある。
東側の窓からは、高速道路の向こうに広がる碧い海。
南側の窓からは、一メートルたらずの所に建つお隣さんの二階の窓。
その窓の部屋の主は幼馴染みのサエという女の子で、何時もは誰かが起こすまで起きないのだが。
シャッ。(←開けた)
「……………」
シャッ。(←閉めた)
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