僕の中の十字架

立ってられなくて。
怖くて堪らない。
嘘だと思いたい。
嘘であって欲しい。


嘘じゃないのだろう。





「………っ …〜っ………」


泣き声すら出せなくて、クロエはただただ、涙をボロボロと流すことしか出来ませんでした。

サエは、何が何だかよく解りませんでしたが、とりあえずクロエの背中をポンポン叩いてあげます。






「…………しんでた」





「え?」


「死んでた…………。父さん……自分でお腹刺して………」

「そ、それって、切腹……?」


コクン、と自分の腕の中で頷いたクロエのつむじを見ながら、「えらい古風やなー」と、半ば現実感の無いまま思ったサエでした。



しかし、明かりに照らされた廊下に、点々と残された血痕を目にして悪感が走りました。


「お、おばさんは?」


涙で濡れた顔を上げて自分を見上げたクロエの表情は、おおよそ世界の終りを見たかの如しです。



サエはクロエをそのままにして立ち上り、しっかりとした足取りで血痕の後を追いました。



ついて来ようとしたクロエに、


「そこに居て」


しっかりといい聞かせ、階段から、点々とリビングの扉へと続く血痕を踏まない様に気を付けながら、ドアの前まで来ました。


煩く鼓動を繰り返す心臓を押さえながら、サエはドアノブに手をかけました。




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