僕の中の十字架
嫌だ!
開けたくない!
そう思うと、すぐに右手がドアノブを離してしまいそうです。
そうだ、このまま離せばいい。
そうすれば何も見なくていい。
そんな思いに反し、右手はドアノブを廻し、微かに擦れるような音を出しながら開いていきました。
夕暮れの赤い光に照らされて、薄ぼんやりと二つの物が床に転がってます。
そのうち一つは、サエも見慣れている、クロエの食卓テーブルとセットの椅子です。
もう一つは………。
「……―――っ」
ライトを点けて初めて確認出来ました。
此方に背を向けて倒れているクロエのお母さんでした。
頭の一部の髪が血で固まり、流れ出た血液は、床のフローリングのワックスにより染み込まずに、紅い血溜りを作ってました。
更に、背中に刺し傷。
えぐられた様に傷口が開き、中の組織やら何やらが覗いてました。