僕の中の十字架
チラリと時計を見ると、12時ちょっと過ぎでした。


時刻を確認した途端、眠気がしてきたクロエ。―――子供はおねむの時間です。


しかしベッドを見下ろすと、某ホラー映画のワンシーンのごとき寝姿のサエ。

さながらテレビから這い出る途中で力尽きた様な体勢で、ベッドから頭だけ垂らして寝てます。


恐いです。

っていうかよく寝れるなアンタ。


引っ張ってもビクともしない。
重いです。



「…………サエ」


「うぃ〈がばっ〉」


「起きてんのかよ」


「なぁにー?」


「人のベッドで寝るなよ」


「聞こえなーい」


「布団を被るからだろ」


「眠いのー」


「自分の部屋行け」


「この冷血漢」


「知るか」



ブツクサ言いながらドアに向かったサエは、一度振り返って、



「クロ。………あのさ」


「今度は何?」



多少呆れながらも優しい(お人好しとも云う)クロエは律儀に応えてあげます。



「クロさ、気付いてるか知らんが――――笑顔、上手くなくなったよ」


「………」



サエの表情は真剣そのもの、先程までの陽気なコメディエンヌの雰囲気は微塵もあらず。


元は達人並の笑顔だったというわけでしょうか。――――全く不明ですねそこらへん。

それでも、サエが何を伝えたいのかはきちんとクロエに伝わりました。



「わたしは、何時もの笑顔のクロの方が良いんだよぅ………」



ドアから片目を覗かせて、サエは言いました。
その瞳は優しげで、何処か悲しげ。



「お前だって…………」


「ん?」


「なんでもない、もう寝るよ」


「うん、おやすみ」





ドアの向こうに消えたサエの足音を聞きながら、クロエは唇を噛み締めました。



知ってるのに。

ぼくは知ってるのに。

言うのが怖くて、言えない。




「お前だって、何時も無理して笑ってるじゃん」





怖がってるじゃん、あの人を。










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