僕の中の十字架
父さんはやってない。
母さんを殺さない。
絶対違う。
悲しい。
涙が出ない。
いっそ泣けたら楽なのに。
「父さんの死に方も、妙です。 自殺の仕方なら他にもあるでしょう? ――何であんな、時代錯誤なやり方で死んだんでしょうか」
「わたし、自殺するなら切腹するけど」
「さすが歴史ヲタ。男らしいっていうか何ていうか」
「ヲタ言うな、愛好家と言え」
「どっちも一緒だ」
「サエちゃん、好きな歴史人物誰ですか? ボクは鳥居強左衛門です」
富士原さんが食い付いてきた……
「わたしは森蘭丸かな」
やべぇ、歴史ヲタが群れとる。二人なのに群れとる。
「「おい、今は関係無いからやめてくれ」」
偶然にも北村さんとハモった。
「ふむ……。野田さんの死因は青酸カリ…………」
「クロ、正餐(仮)って何?」
「違う違う違う違う全然違う。正式の献立に(仮)をつけるのもおかしいし。普通変わる恐れがあってもそう表記しないし、とにかく根本的に違う。っていうか聞いた事くらいあるだろ」
「クロちゃん、ツッコミばかりで行を消費しすぎです」
「クロちゃん言うな。全部、抜く、引く、前髪、オーケー?」
「……の、ノォォ……」
ぼくもノリが良くなったものだ。
まあいい、ぼくはサエに説明した。
「青酸カリはね、元は“シアン化カリウム”といって、猛毒の白化個体なんだ。致死量は0.15グラムで、―――」
「あんたクロですか?」
「ぼくはクロですよ」
「人は、流暢な説明を一度で理解するのは難しい。―――長けりゃなおさら」
「………」
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