僕の中の十字架
許せない。
サエが馬鹿なんじゃない、おばさんが馬鹿なんだ。
自分が大事な奴。
子供の悲しみは無視して、自分がつらい時は甘える奴。
親にそうやって甘えられる側としては、耐えられない。
あの人は解ってない。
自分が言った言葉が、何れだけサエを傷付けているのか。
ぼくがいる時だけニコニコするおばさん。
ぼくが居なくなるとサエを攻撃するおばさん。
「わたしさぁ、馬鹿だから解んないさぁ……、……要らない人間はどこ行きゃいいの? …………天国?」
目元だけ出して、ボロボロ涙を流しながら、ぼくを見るサエ。
天国という言葉に、腹の底が冷えた。
親は、一番近い他人。
唯一、産まれた時から必要とする存在。
親は、一番近くて一番大切な存在。
人間だから、構って欲しい。
人間だから、愛して欲しい。
人間だから、悲しくなる。
辛いのに、悲しいのに、一番近くの人は敵だった。
ぼくは、それを知っていたのに、何も言わなかった。
言えなかった。
ぼくはまだ子供だから、何もしてやれない。
「…………」
サエの手を握りかえした。
笑って欲しかった。
ぼくは、言いたかった。
サエを必要とする人間が、ここに、お前の隣で、お前の手を握ってるよ。
「おばさんだって、きっと後悔してるよ。―――サエだって、おばさんが必要だろ?」
「別に、今はすがらないと生きれないだけだし」
「じゃあ、おばさんが嫌い?」
「嫌い」
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