親愛なる歌歌いさま
1

「じゃあまた頭から歌うんで、ギターお願いね。」


マイクの高さを調節しながら、ハルは振り返りそう言った。
返事の代わりに弦を弾くと、ベース音が重なってきて、ハルはまたいつもより高めのキーを叫ぶようにして歌った。

メジャーデビューしてから3年を過ぎて、少しずつオリコンに自分のバンドの名前が載り始めた大事な時期だ。初めてテレビで自分たちの曲が流れた時は、飛び上がるくらいに嬉しくて、平日の夜だというのに集まって祝杯をあげたことが記憶に新しい。


どうやら、僕の書く詩もなかなか高く評価して頂いているらしい。ついこの間インタビューを受けた雑誌でも、恋愛中の人に響く歌詞を書く秘訣なんてゆうものを聞かれて返答に困ったばかりだ。
その時には答えられなかったが、そんなものは答えがもう決まっているようなものだと思う。
僕も恋をしているからだ。
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