HAPPY DAYS
水族館て暗くて揺れてる。


私の心みたい。


深海魚みたいな私のイビツな心。


「魚すごいな、なんか存在がすごい」


紫色の影を作って身を翻す魚達に、毅くんは歓声をあげる。


「毅くん、魚好き?」


「うん、水族館は遠足で来た以来だけどね」


毅くんはいつもの
大人っぽい落ち着き払った態度を捨て、
無邪気に喜んでいる。


毅くんは肩から腰にかけての曲線が、すごくセクシーだ。
硝子におでこを付けて、上目使いで魚を眺めている表情が余りに無防備で、
…意外な感じ。


「瀧澤、タカノの事好きなの?」

「え?」

「純を好きなんでしょ?まだ」

返事をしなかった。

何故だか、毅くんといる水族館の暗闇で、毅くん以外のことを、…例えそれが花巻くんの事であっても…考えたくなかったから。


「瀧澤、きっといい女になるよ」

山浪くんの声。水みたいと思っていたけど、今は海みたい。


「瀧澤、今は自分に精一杯だけど、人の事もっと考えられる余裕が出来たら、きっと今よりずっといい女になれる」


山浪くんの声という深海に泳ぐ、深海魚の醜い私。



光も見えないまま、黙って泳いでいた。
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