HAPPY DAYS
私は聞こえない振りをした。

「これ美味しいね、テリーヌだっけ?」

「美味しいって、味音痴な癖にわかるのか」

「うるさいなぁ、普通にわかるよ」

「お前、料理作れるようになったのかよ。結婚できないぞ」

「結婚する気ないし」

「そんな事言わないで結婚してくれ」

「はぁ?なにそれ」

「プロポーズ」

開いた口が塞がらない。
高校の時から、長身で端正な顔をして、派手好きなヒロシはモテ男くんだった。
そのC調なとこと、軽薄なとこは嫌いで、どうして付き合ったかと言われたら、勢いとしか言えない。

後、優しくて男気があるとことギターが上手いとこ。

他の女の子にちやほやされても、私がヤキモチを妬かないと言う変な理由で、どんだけ喧嘩したか分からない。
結局、浪人決定しても私の側でグダグダしてそうな気がして、
私から別れを告げた。


彼にとっても、私にとっても、
相互によかったと今でも思う。


大英断。


「…って毅に言われたら、どぅすんだよ、真知子」


「言われてもないことに、仮定で答えられません」

「言われてないから、仮定で答えるんだろ」

「仮定についての定義はそうだけど、仮定で答える事と仮定で答えるべきではない事には明言してないでしょ。そもそも仮定とは…」

「分かった!分かった分かった、気持ちは分かった!仮定も分かった。ただ毅について、真知子は分かってない」


「…わかるよ、ヒロシよりね」

最近は突っ掛かるばかりの毅くん、でも以前は本当によく話した。

天気の話から、好きな数字や曜日まで、
私達の嗜好は似通っていた。

一緒に観た映画やお芝居でも、毅くんの意見は刺激的で、
同じ時を過ごす事は楽しかった。

それが失われつつある寂しさに、更なる不安材料。


毅くんの気持ちを明らかにする意味はない。


それは毅くんを失いかねない恐怖感さえ覚えさせた。



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