HAPPY DAYS
周りのテーブルからヒソヒソ囁かれてるのに気付いた。


瀧澤もそうだったのだろう。涙を指で抑えて、天井を眺めてる。まるで、そうすれば涙が涙腺に戻るかのように。


「…ごめん。オレが悪かった」


「ううん。最初に悪かったのは私だから」


「瀧澤は何にも悪くないよ」


「今なら、言ってもいいかな、…ママになんか…された?」


「な、な、な、何にもされてねぇ」


衝撃が走った。忘れていた記憶が蘇る。
瀧澤ママの細い指がオレの身体に触れたこと。
その時のママの目。上目使いにオレを見た目付きは「女」だった。
君代がオレを求めるように、瀧澤ママがオレを求めてきたのは、間違いない。
今ならはっきりわかる。


「いいの。分かってるの。私の母だから…でも、キツイ」


「紀子…」


弱気な瀧澤を見て思わず、名前で呼んでしまった。


「…じゃなくて瀧澤」


「紀子でいいよ。瀧澤なんて呼ばないで」


「紀子…本当にごめん。オレ、どうしていいかわからなかった。それがこんな風におまえ傷付ける事になっちゃうなんて…」


陳腐な言葉。
オレが傷つけた紀子が、目の前で震えてるのに。
こんなつまんないことしかいえない。


「紀子、オレ…」


「大丈夫。花巻くんのこと、1番分かってるの、私だもん」


今まではそんな紀子の押し付けがましい性格が苦手だった。
でも今は、強がる紀子に応えたかった。


強がる紀子…強がらせてるオレ。


紀子ママの事、オレの冷たい仕打ち、君代との事。


みんな、みんな、オレが悪い。





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