HAPPY DAYS
紀子は震えながら一人、照明の落ちた病院の廊下に立っていた。
青白い顔で手術室を見詰めていた。

紀子に駆け寄ると、紀子は泣きながら笑った。


「やんなっちゃう、子宮外妊娠だって。出血がひどいから、…わか、わか、…わからないって」


最後は嗚咽に変わっていた。
一人で気を張っていたのが、オレの顔を見て緩んだのだろう。
オレが飛び付いて支えなかったら、紀子は崩れ落ちてしまったはずだ。


紀子を抱き寄せて、ベンチに腰を下ろさせる。紀子はただただ、泣いていた。


「誰の子なのかも聞けないで、文句も言えないで…もしママが…私…どうしよう」


顔までピッタリと寄せているから、紀子の涙の味がする。


「大丈夫。絶対紀子ママは大丈夫だから」


そう言いながら、倒れそうな紀子を抱っこして、髪を撫で続けた。


次第に紀子も落ちついてきたのか、泣くのをやめ、ただただじっとオレの手を握りしめていた。オレは空いている方の腕で紀子を抱きしめ、泣き止んだとしても、いつ倒れてもおかしくないような紀子の体を支えた。



手術室の表示ライトが消え、中から紀子ママがストレッチャーに乗って出て来た。


執刀医らしき医師が、紀子に向かって、


「もう大丈夫ですよ」


とマスク越しに笑って見せた。



と同時に紀子は、気絶してしまった。
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