HAPPY DAYS
純達が目を覚ましたのは1時くらいだった。


瀧澤のお母さんも痛み止めが
効いてるらしく眠ったまま。


二人は目覚めると見つめ合い、照れ屋の純とは思えない優しさで、瀧澤の乱れた髪を手櫛で整えたりしてやっていた。
瀧澤は瀧澤で、されるがまま。純の膝に手を乗せてすがるような姿勢だ。


呼び出されたボクの立場がないくらい、二人の世界。


「瀧澤さん、お母さん目が覚めましたよ」

弾けたように立ち上がる瀧澤。後ろも見ずに病室に飛び込んだ。


「女の人の病室だし、遠慮しとこ。お昼買ってきて上げるよ、紀子に」


純はボクを誘ってその場を離れた。


純が何か話があって連れ出しているのは分かっていた。純の思い詰めた目付きでもわかる。


病院独特のエタノールの匂いから離れたくて、ボクは純の後をついて外へ出た。


ソメイヨシノはもう終わってしまった。艶やかな桜も散ると無惨。


それでも側にたてば、桜の香に包まれた。


「…毅」


「どうした?」


「オレ…選べないよ」


「?」


「あんな状態の紀子を置いて、君代にいけない…」


「じゃあ、君代ちゃんと別れ…」


「別れられない。あの子、オレがいなかったら、また荒んだ生活に戻っちゃうよ…今は、オレがあの子の夢だから…」


純がこんなに、人の気持ちばかり考えるなんて、


いや、分かっていたかも…


分かっていたから心を開けた。




「どうしたらいいのか分からなくて…苦しい…それ以上に二人とも苦しめてる…」




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