HAPPY DAYS
目の前の、可愛い笑顔の君代を見ていると、それでもやはり、君代を選ぶ以外の選択肢はなかった、と確信した。


紀子は強い。


オレがいなくても平気。
いや、寧ろ向こうがオレの世話をやいていた。
なんていうか、あいつの価値観でオレを判断し、処分し、満足を得ていた。


でも君代は違う。


オレがいること、それが君代の幸せ。


しょってる?


だって仕方がないさ。君代の気持ちを知ってるから、
オレはそんな君代をほっとけなかった。


それがオレがした決意の全て。




「君代、変わったよね?」


「変わったかどうか、オレは今の君代しかしらないから」


「君代ね、前向きになったね、って言われるよ。前は…バレエやめてから、夜が長くて…時間を潰す為なら何でもやったの」


「今は?」


「純といる時は純が全て。純がいないときは…」


「何してるの?」


「もう一回何かにチャレンジしたいな。君代、小さい子好きだから、幼稚園の先生とか、小児科の看護婦さんなんかがいいな、って。…勉強しようかな」


「君代すげえな、オレなんかまだまだ何にも考えてねぇし」


「そんなこと…」


君代の白い細い指を握った。
指先で握り返してくる、ささやかな圧迫。
遠慮がちな君代の力に、逆に心がほのかな痛みに近いものを感じる。


優しい痛み。


激しい感情はなく、緩やかな小川みたいな起伏のなさ。


恋ってこんな穏やかで居心地がいいものなんだ。




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