HAPPY DAYS
「ピアノは後からつけるとして、取り敢えず今日は帰りますか?」


毅は言うより早く片付け始める。


なんだよ、もう解散?


オレは毅と「二人で初めての共同作業」が楽しくて、時間が過ぎてくのも、マジ忘れてた。



時間…

…忘れてた…?


このキーワード、マジひっかかるし。


時計は6時半だった。


もうすっかり日が落ちて、真っ暗だ。


「純くん」


「…あ、紀子。どうしたの?いきなり『純くん』なんてさ」


声をかけながら、もうオレの左側に寄って来た。


そういえば、紀子の癖なのか、いつも左脇に来たがる。


立ち位置にこだわるなんて漫才師か?!


毅との時間が壊れていく。


なんかムカつくよな。


紀子が悪い訳じゃないけど。


「純くんで良いって言ったよね?だから。心境の変化」


「ふうん」


オレの返事は確かに心のない感じだったと思うよ、だけど
何故、毅はオレを睨む?


そんな空気にもひるまず、

「昨日、あんなことあったし、送ってほしいの。一人じゃ怖くて」


「…あ〜、うん」


「この時間ならママいないし」


今度は毅が目を真ん丸にした。
毅の癖は驚いた時、目を見開くこと。
立ち位置は知らないけど。


毅は、単純に、紀子がオレを誘ってる、と思ったのだろう。
しかも毅(他人)の目の前で。



オレには、
紀子は昨日、紀子んちで、紀子ママと何かしらあった、と感づいてる、
と分かった。


でも、オレがそれを喜んで享受したと思われるのは、げー、だ。


気は進まないけど、行くしかない。


「分かった、でも紀子ママいたら、オレ、帰るから」






学校から紀子の家まで、歩くと20分くらい。





その時間がきついよ。




< 69 / 219 >

この作品をシェア

pagetop