HAPPY DAYS
春風が優しいなんて誰が言ったのか。


優しい春なんてない。
春はいつだって嵐。


夜空は既に真っ黒い雲が、春らしいもやのかかった星達を隠して、
くぐもった雷鳴が響く。



オレは雷雲が広がる様を初めてみた。そしてその中へと歩き出した。



稲光と同時に土砂降りになった。


なんて天気だ。


春雷を聞きながら、小走りに駅に向かう。


ショートカットには公園を抜けていくのが1番早い。


1メートル先さえ朧げにしか見えない豪雨の中、ぼんやりとお化けみたいに人の輪郭が浮かぶ。


ってゆうか、この雨だぜ?立ってるなんてガチで幽霊じゃね?寧ろ。




オレ、そーゆーの苦手。






「…くん」








「…んくん」






…マジでヤバイって。




「純くん」






え?






「やっぱり純くんだ、待ったぞ〜」




…君代だった。




声すら聞きづらい凄まじい雨音の中で、懸命にオレの名を読んでいた。






近寄ると、微笑んだ。


小さな笑窪。今気付いたよ。




急に雨が止んだ。




「すげ〜ヤバイ!純くん来たら雨止んだし。」



ビショビショの美少女。



化粧ももう落ちていた。
でも、ずっと幼い顔になり、可愛いらしい。


でもオレの顔を見て目がキラキラ輝いてる。


ずぶ濡れの顔に涙が一気に溢れた。


ごめん、ごめんな。


「嬉しい、忘れちゃったかと思ったよ」


君代は手で涙を拭いながら、また泣いた。



「純くん、ありがとう、…後、ごめんね」


なんでオレに謝るんだよ。


「君代ね、純くんが来ないかもってうたぐっちゃった。一瞬だけ、一瞬だけだよ!…ごめんね」


君代はまた泣き出した。


「純くん、ありがとう。大好きだよ」


オレは堪え切れず、君代を抱きしめた。
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