HAPPY DAYS
紀子がトイレに立ったのを機に、追い掛けて廊下で捕まえた。


腕を掴まれて、紀子は少し驚いた様子だが、嬉しそうな風ではない。


「紀子…」


オレは思い切りのロマンチシズムを注ぎ込んで、紀子を抱きしめキスしようと目を閉じた。


「花巻くん、私トイレ行きたいの」


紀子の冷たい言い草に、目を開けると、言葉以上に冷え冷えとした紀子の顔がオレを見据えている。


気持ちが萎えて、立ち尽くしているオレを残して、紀子はさっさとトイレに向かった。





…確かに、悪いのはオレだ。






下校時、校門には、当然君代の姿はなく、何だか皆に見捨てられた気持ちになり、寂しさを毅にぶつけてみた。


「オレにも欲するとき、欲さないときがあっちゃイケないのか?って思うよ」


再び毅の家で、コーヒーを飲みながらオレは叫んだ。


「確かにいろいろあるよな。一人になりたいとき、人恋しいとき、…瀧澤の可愛さにぐっとくるとき…とか?」


毅には御見通しかよ?


オレが話そうと口をあけた途端、毅の携帯が鳴り出した。


「誰だ?この番号。もしもし?」


音漏れして聞こえてきたのは


「瀧澤です」


紀子?!


「お〜。今純もいるよ」

と毅の言葉に、急に紀子の声のトーンが落ちて、何を話しているか聞こえない。
耳の穴がこそばゆいようなじれったさに、
オレは逆に席をたった。


「トイレ行ってくる」


その言葉に紀子を思い出し、
訳の分からない寂しさに追い撃ちをかけた自分自身に、
猛烈に腹が立った。


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