HAPPY DAYS
結局、トイレに行く振りをして毅の家を飛び出した、
みたいな事になってしまった。


切ないくらい、駅は近かった。


毅に何も言わずに出た後ろめたさが、過ぎ行く車窓からの明かりを流れ星みたいににじませた。


…涙目だったのかも。


わがままなクソガキのオレは、
別れるつもりでいた紀子に未練たらたらで
紀子が毅に電話してること、
しかも君代から連絡もないこと、
全部が寂しくて、
赤ん坊みたいに泣いてるんだ。



駅が近付き、ドアが開くと、誰にも気付かれたくないとホームに飛び降りた。



改札に定期を翳してポケットにしまおうとした手を掴まれた。


「純くん」


君代だった。


「ごめんね、待ち伏せしてた。学校だとまた彼女がいるだろうから、純くん困らせると思って…」


君代は笑うとき、小さな子供みたいに鼻にシワを寄せる。


オレはその笑顔で、痛いような寂しさに優しく触れられたような気がした。





握られた手はそのままに。








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