liftoff
バスルームの窓を全開にして、わたしは、バスタブの、なみなみと溜めたお湯の中に居た。ゆっくりと、そうやって浸かりながら、漆黒の闇の中、街の灯りを反射して仄かに光る海を見ていると、不思議と、何だか、ここが日本のような気がしてくる。昼間は、窓際に置いてあるブーゲンビレアの鉢植えや、エメラルド色の海のおかげか、そんな錯覚を覚えることはないのだけれど。
ふと思い立って、わたしは、バスルームの電気を消して、キャンドルを灯すことにした。確か、洗面台の上に燭台とキャンドルがあったはず。マッチは、と、わたしは、タオルを巻き付けただけの姿で部屋へ行くと、ベッドサイドにあるテーブルの上の、灰皿の中にあるマッチを手に取った。そして、急いでバスルームへ戻って、キャンドルに火を点ける。
電気を消すと、ほわんとした、丸い、柔らかな光が辺りを照らした。明るいというよりも、暗いに近い。けれど、少しの風で揺れるその光は、わたしの気持ちを、ゆるゆると解いてくれるようだった。思わず大きな欠伸をして、バスタブの縁に、首をもたれ掛けた。このまま眠ってしまいそう。
ーーいけないいけない。今日は、あんなに眠ったじゃない。
わたしは、自分を戒めるように、心でそう呟いた。
今日。ビーチで酔っぱらってしまって、結局、帰ることもできずに、寝椅子に舞い戻って、そして、そのまま、何と、3時間も熟睡してしまったのだ。
幸か不幸か、酔っぱらっていた間のことは、しっかり、全部覚えている。
素足で砂の感触を味わったことも。一瞬とはいえ、良からぬ妄想をしてしまったことも。そのせいで、急にその場に居られないぐらい、落ち着かなくなってしまったことも。それなのに、自分で真っすぐ歩くこともできずに、支えてもらいながら、やっとのことで、寝椅子まで戻ったことも。
また思い出して、思わず、わたしは、口元まで、お湯に浸かった。無意味に、ブクブク、と息を吐き出してみて、そして、また、水面に顔を出す。かぁぁ、と、顔が熱くなるのを感じて、バシャバシャと、顔を洗った。