liftoff
 その一帯で、一番盛り上がって騒がしいテーブルは、さっきまでは、わたし達のテーブルだったはずなのに、今は、彼のテーブルが、一番騒々しい。また一人、女の子が椅子持参で現れて、仲間に加わった。そんな彼のところは、今や注目の的。
「すごいことになってる」
 何とか自分のテーブルに辿り着いて、わたしは、そう呟いた。
「そうなの、そうなの! 彼、気前いいわね。そう思わない?」
 マリがそう言って、半ば羨ましそうに、そっちのテーブルを見ている。
「どういうこと?」
 意味が分からずに、そう訊き返すと、マリのパートナーのカイジが、
「店の女の子がテーブルにつくとさ、その子の分も、お客持ちだから、ってことさ」
 と、補足説明をしてくれた。
「すっごいわよね。本当は、もっと群がってたんだけど、彼が断ったの。それでも、一人対4人、よ」
 マリがそう続けて、肩をすくめる。
 わたしは、ピニャコラーダに口をつけながら、彼を見た。彼は、彼女たちと話しながら、頷いたり、笑ったりしている。じっと見ているとーー今は、彼は彼女達の相手で手一杯そうなので堂々と観察できるーー、彼自身は受け身だというのがわかった。積極的に話しかけることもしなければ、飲み物をむやみに勧めるようなこともしない。けれど、彼女たちは違う。彼の隣のポジションが、入れ替わり立ち代わりだし、彼の隣に座ると、ここぞとばかりに彼に接近して、彼の身体に触れたり、耳元で何か囁いたりしている。中には、あからさまに彼の腿に指を這わせたり、耳にキスをしたりする女の子も居た。
 わたしは、そんな場面を見てしまって、思わず目を逸らした。それなのに、また、まるで視線が彼に吸い付くかのように、どうしても、彼の方を見てしまう。
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