liftoff
「彼の肌の色、いいわよね?」
 アキが、マリにそう言っている。
「カーキのシャツに合ってるし、上品そうなところが素敵!」
 マリはそう言い返して、彼の方を熱っぽく見詰めていた。
 わたしは、思わず、彼女たち2人の、パートナーをチラと見た。彼らは彼らで、お立ち台で踊っている、番号付きの女の子達を見て、あーでもない、こーでもない、と勝手に品評会を開いているようだった。どっちもどっち、ってことね。
 思わず溜め息をついて、手にしたままのピニャコラーダをまた口元へ運びながら、彼の方を見た。彼は、相変わらず、右からも左からも攻められている。一体、どんな気持ちなのだろう。彼女たちが、お金目当てで群がってきている、っていうのも、きっと、分かっているだろうし……。

 わたしはというと、実は、彼の身体に誰かが触れる度、胸が、ズキン、と疼いていた。
 とてもではないけれど、正視していられない。
「ウイコさんは? どの子だと、思う?」
 はっと我に返ると、わたしはわたしで、いつの間にか、マリとアキから答えを求められていた。訊き返すと、どうやら、彼がどの子を持ち帰るか、というのを賭けているらしい。負けたら、帰りのトゥクトゥク代を支払わなくてはならないらしい。けれど、わたしは、勝負そっちのけで、思わず、
「誰のことも、買わないと思うわ」
 と口走ってしまった。瞬間、2人の視線が刺さるように鋭くなる。
「ふふーん、そう」
「なるほどねー」
 わたしは、慌ててピニャコラーダをごくごくと半分以上飲むと、椅子に身体を沈めた。
「ウイコさんも、かなりキてるんですね、あのヒトに」
「うん、そうみたい」
 そう囁き合いながら、彼女達は、ニヤニヤとわたしを見詰めている。わたしは、ますます椅子に身体を沈める。ああ、身が縮む思い、ってこんな感じなのか。
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