liftoff
 最初、gardensでウイコを見たとき、危なっかしい、と感じた。
 まるで、そよ風が吹いたら、それだけでそちらの方向へ飛ばされて行きそうなほどに。だから、純粋に先輩心から、危険な方向へ流れることを防いであげよう、という気持ちで声を掛けたのだった。
 だって、女の子がたった独り、パトンの街を、夜なんかに、出歩いていていいわけがない。
 現に、彼女は、何の警戒心も無く、僕の方へやってきた。
 正直、すんなり僕についてきた彼女にも驚いたけれど、そんな行動に出た自分に、一番驚いてもいた。いつもなら、女の子に声を掛けるだなんて、そんな煩わしいこと、絶対にしない。それに、女の子から声を掛けられることは多かったけれど、決してなびくことはなかった。それは、この地に来てからずっとそうだった。もう1年になろうとしているけれど、その間、あちこちに友人を作りこそすれ、ずっと、恋人という存在を作ろうとは、何故か思えなかったのだ。ここにずっと居るつもりはなかったし、それに、恋人という近しい存在は、時々、とても鬱陶しい存在に変身する。
 ここへ来たのも、そんな経験あってのことだった。逃げて来た、と言っても過言じゃない。
 それがここへきて、なぜ、自分があの子にこだわるのか、分からなかった。
 恋をしたことがないわけではないから、女の子に恋をした自分の感覚を分からない訳ではない。でも、今回は、それがひどく曖昧だった。ウイコの彼に嫉妬するぐらいだから、多分、僕はウイコに恋をしているのだろう。でも、それがどの時点からで、自分が彼女の何に惹かれているのか、分からなかった。
 ジルは、諦めたように立ち上がると、またベッドに倒れ込んだ。
 目を閉じて、眠ろうと試みた。
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