liftoff
 そのとき、部屋のチャイムが鳴った。
 ジル……? でも、少し早すぎる。
 怪訝に思いながら、それでも、もしかしたらジルか、それとも、ガイかもしれない、と、ドアを開けると、そこには、何と、マサユキが居た。
 彼は、強引にドアを大きく開けると、勝手に、部屋へヅカヅカと入り込んできた。その彼の頬は紅潮していて、明らかに立腹している。スーッと、血の気が引く気がした。
「昨日あれから、あの男と居たのか?」
 後ずさりしようとするけれど、足がもつれて、うまく下がれない。
「違うわ。ビーチで、朝まで過ごしたの。ひとり……」
「嘘だ」
 彼が、前に進み出る。わたしは、後ろに下がり損ねて、思わず、ベッドに座り込んでしまった。
「……本当よ」
「おまえ、こっちへ来て、ここの生温い空気にやられたんじゃないのか? おかしいよ」
 マサヒロは、わたしを見下ろしながら、そう言った。逃げ出したいのに、体が動かない。まるで、金縛りにあったかのよう。
「あの男とどうにかなって、どうするつもりだ? ずっとここに住めるわけ、ないだろう? それに、ああいう男が、本気でツーリストを相手にすると思うのか? 遊びの一環なんだよ、おまえは。目を覚ませ」
 わたしは、顔を背けた。何も言いたくない。口をつぐんだまま、目を閉じた。
「帰るぞ。俺と一緒に、帰ろう」
 マサユキは、わたしの肩を掴んで、揺さぶる。わたしは、もがいて、その腕を振り払った。すると、彼は逆上して、ジタバタと反抗するわたしを、力づくでベッドに組み伏せた。抑え込まれた腕が、ミシミシいっている。痛みで、反抗すらできない。
 と、突然、ドアをノックする音。
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