執事の憂鬱(Melty Kiss)
清水の視線を感じたのか、紫馬は、口許に意味ありげな笑顔を携える。

「でもさ。
あれだよね?
ロストバージンだったら、都ちゃん抱いてみても怒らないかな?」

本気とも冗談ともつかぬ戯言――

などではないのだろう。
剣呑な瞳が月明かりを反射して怪しく光っている。

紫馬の女好きは病的だとは知ってはいたが、まさかここまでだったとは。

「怒ると思いますよ。むしろ、確実に嫌われます」

清水はこみあげる頭痛を堪え、冷静に諭す。

「やっぱりそうかなぁ。
愛娘に嫌われるのだけは避けたいからなー。
やっぱり、我慢するしかないのだろうか。こんなに好きなのに」

好き、という言葉に様々な種類があるということを知らないわけでもあるまいに。

いや、案外知らないのかもしれない、と。
予想外に真剣な眼差しで、都が……と呟き続けている紫馬に清水は冷ややかな視線を向けてしまう。


「我慢してあげて下さい。次期総長の為にも」

「大雅くん、ねえ。
総長なんて肩書きを持つ割には、うちの姫に一途過ぎるきらいがあるよな」

泣く子も黙るという次期総長の存在も、紫馬にとっては何の抑止力にもならないらしく、のんびりとした口調で呟くと煙草に火を点けた。


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