執事の憂鬱(Melty Kiss)
直後。
紅い物体が目の前を横切った。
そして、
ぞぶり、と。
おぞましい音をはっきりと耳にした。
その数秒後、
『器物破損罪で逮捕する』
息を切らしたひげ面の若者が、そういうのを耳にした。
そうして。
ようやく、息苦しさから解放された。
『おじさん、大丈夫?』
今までのことなんて嘘のような愛らしい声に、瞳を開く。
さっき消えてしまった少女が、再び心配そうな視線を自分に向けていた。
『ああ、……君は?』
自分より弱いものを見たら、守ろうとする本能が働くのだろうか。
言葉を発すると同時に、無意識のうちに、清水は都の背中を抱き寄せていた。
『私は平気』
腕の中で、くるりと方向を変え、都は後ろを見た。
清水がその視線を辿ると、斎藤がひげ面の若者に取り押さえられ、リノリウムの床に押し付けられているのが見えた。
その、右腕のナイフが突き刺さっているのは、紅いランドセル。
『これって……』
都は、そこで初めてふぅと切ないため息をついた。
『いいの。
折角のおじいさまからのプレゼントだったのだけれど。
仕方が無いわ』
幼い声と、アンバランスな大人びた物言いに、ふっと頬が緩む。
紅い物体が目の前を横切った。
そして、
ぞぶり、と。
おぞましい音をはっきりと耳にした。
その数秒後、
『器物破損罪で逮捕する』
息を切らしたひげ面の若者が、そういうのを耳にした。
そうして。
ようやく、息苦しさから解放された。
『おじさん、大丈夫?』
今までのことなんて嘘のような愛らしい声に、瞳を開く。
さっき消えてしまった少女が、再び心配そうな視線を自分に向けていた。
『ああ、……君は?』
自分より弱いものを見たら、守ろうとする本能が働くのだろうか。
言葉を発すると同時に、無意識のうちに、清水は都の背中を抱き寄せていた。
『私は平気』
腕の中で、くるりと方向を変え、都は後ろを見た。
清水がその視線を辿ると、斎藤がひげ面の若者に取り押さえられ、リノリウムの床に押し付けられているのが見えた。
その、右腕のナイフが突き刺さっているのは、紅いランドセル。
『これって……』
都は、そこで初めてふぅと切ないため息をついた。
『いいの。
折角のおじいさまからのプレゼントだったのだけれど。
仕方が無いわ』
幼い声と、アンバランスな大人びた物言いに、ふっと頬が緩む。