執事の憂鬱(Melty Kiss)
紫馬は紅い唇で穏やかな微笑まで浮かべてみせる。

「ま、長い話も一言で纏めることは可能だ。
つまり、俺は反体制派なんだよ。
物心がついたときからずっと」

穏やかな口調で紫馬が切り出した。
清水は相槌さえ打たず、耳を傾ける。

「第三国で人質になった日本人の話、よく聞くだろう?
政府やマスコミがこぞって『避難勧告を聞かなかったお前らが悪い』と非難するような、そんな日本人。
俺の両親もそうだったんだな。
それで、俺は、その第三国で生まれてしまった日本人人質同士の息子ってワケ。
そりゃ、日本政府にしてみりゃはた迷惑な存在だよ。
両親は、日本中から『悪いやつ』とみなされている一方で、『子供に罪はない』なんて理論も存在する。
こうなったらもう、助けるほかないだろう?
俺の誕生を機に、日本政府は秘密裏にその第三国と交渉を進めることになった。
結局、両親は銃殺されたけど、俺はなんとか日本に帰ることが出来た。
でもさ。
邪魔だな、コイツって顔で、全ての大人が俺のことを見ているんだよな。
もちろん、表面には出さないよ。
でも、滲み出てるんだ。これ、結構辛いのよ」

はっ、と。
吐き捨てるように笑って見せた。

それこそが彼の秘めていた本音なのだろうと、清水は思う。
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