執事の憂鬱(Melty Kiss)
ごくりと、琥珀色の液体を喉に流し込んだ頃には、清水の気持ちは決まっていた。

「お前になんて落ちないよ」

と、まずは軽口で冗談を片付けた。
それから、ふいに声を落とす。

「……それに、ここ(銀組)を抜けようなんて思ってない」

自分でも驚くほど落ち着いた声だった。
とっくの前から決まっていたに違いない、と。
清水は自分で納得すらしたほどだ。

紫馬は納得できない、という風に大仰に肩を竦めて見せる。

「なんで?
別に、報復されたり、小指を落とされたりするわけじゃないのに。
俺、催眠術のプロなのよ。
いろんなことに使えてとてつもなく便利。
だから、心配しないで抜けちゃいなよ。
なんなら、再就職の手配もちゃんとして差し上げますよ。
ほら、俺ってなんてサービス精神持て余しちゃってるんでしょう?」

ふざけた口調は、しかし、いつもよりずっと早口だった。

「それはもう、都さんの傍に私は不要、という意味ですか?」

意識せずとも、清水の口調は普段のものに戻っていた。
紫馬が唇を閉じる。

すぅ、と。
形の良い瞳を眇めて見せた。

紫馬の頭、と。組の者から一目置かれているときの、彼の真剣な顔がそこにある。

「いいや。
居てくれれば助かるし、清水にしか出来ない仕事もたくさんある。
だけど。
所詮、ここはそういう世界だ」

苦いものを吐き捨てるような、ぞんざいな口調。


そして。
再び微笑を携えて言った。

「それに、抜けるチャンスなんて滅多にないぜ?」
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