執事の憂鬱(Melty Kiss)
『お陰で次期総長、相当ご機嫌斜めだね、ありゃ』

言葉とは裏腹に、楽しそうに笑ってみせる。

『お前はいいわけ?』

娘が自分より年上の男に惚れるなんて許しがたい気がするけど、などと。
子供が居ないどころか、配偶者や恋人さえ居ない清水は想像力だけ働かせて聞いてみる。

『俺?俺は恋に年齢は関係ない派だから、平気だよ。
むしろ、一般人を気に入ってくれたほうが嬉しいじゃない。
まぁ、そうは言っても俺は娘が愛すると言うなら猛獣を連れて来られようが、悪魔を連れて来られようが、認めてあげる覚悟は出来ているけどね』

どんな覚悟だよ、と。
突っ込みたい気を押し殺して、清水は苦笑する。
そんなことより聞くべきことは他にある。

『次期総長って言うことは、ここ。
なんとか組の本部だったりするわけ?』

『そうだよ』

と。
遊園地に向かう子供の笑顔を、紫馬がその甘いマスクに浮かべてみせる。

『銀組総本部へようこそ』

言うと、まるでピエロのように大仰なお辞儀をして見せた。

『……で、お前はここの何なワケ?』

『肩書きとしては若頭補佐。
あ、もちろんこの年齢では異例の大出世ね?』

自慢でもなければ、卑下した風もなく、淡々と紫馬が告げる。
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