執事の憂鬱(Melty Kiss)
たかが、中学生、に違いないのだが。
大雅が出て行くと、部屋の空気の緊張感が途端に緩んだ気がして、清水は口許を緩ませる。

『人の娘をたぶらかして、何が楽しいっ』

それを見咎めた紫馬は不機嫌そうに言うと、ようやく煙草に火をつけた。

『たぶらかしてなんてないさ。人聞きの悪い……パパと仲良くしてくれる?って頼まれただけだよ』

そのテノールの声を耳にして、紫馬の方が相好を崩す。

『な?
俺の娘って世界一可愛いよな』

親バカ度100%の台詞に釣られて、清水も軽く笑った。

『一生パパ大好きで居てくれれば本望なんだけど』

無理なことだと分かっていながら、そう願うのが親心。
愛しさを閉じ込めたような眼差しで、ぽつりと紫馬が呟いた。

それから。
気分を変えるように、紫煙を吐き出し、同時に口許を引き締め、突き刺すような鋭い視線を清水に向けた。

『覚悟は出来た?』

低い声が、電気のように清水の身体を痺れさせる。
息が止まりそうで。

まるで、知らない人でも見るような視線を紫馬に向けた。


それを見た紫馬はふっと表情を緩める。

『ここに入ってくれるなら、何とかしてやってもいいけど。
今ならなんと、三食付き。あ、月給もちゃんと払えますよ、お客さん☆』

生命保険の勧誘か、と突っ込みたくなるような軽い口調にがらりと変えてくる。

『……俺を助けてくれるのが目的?
それとも、ここに連れてくるのが目的?』

清水は、胸につっかえていた質問をついにここで吐き出すことに決めた。

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