執事の憂鬱(Melty Kiss)
押し黙った紫馬を楽しそうに眺めてから、ママはレコードを再生した。
柔らかい音楽が、店の中を満たしていく。

「もう、いいですよ。
今日は娘の恋が実ったんで、ご報告にうかがっただけですからっ」

その口調も視線も。
まるで紫馬が高校生に戻ったかのように、ぶっきらぼうなものに戻っていた。

大人になって身につけた、全てのものを剥がしてしまったまっさらな態度。

「あら、おめでとう。
都さん、今年で16歳だっけ。
時間が経つのは早いものねぇ」

まるで、他人事のようにいい、紫馬が火をつけた煙草をカウンター越しに手を伸ばして、奪って自分で吸ってみせる。

「本当に、後悔して無いんですか?
今からでも……」

「いまさらよ。
母親なんて居ないほうがマシなのよ。
そういう世界なんでしょう?
まさか、都さんの彼氏が一般人ってことは、ないわよねぇ?」

「それはまあ、そうなんですが」

「じゃあ結構よ。
紫馬くんが決めたんじゃない」

高校生が決めたことに、いつまでも従うようなやわな人でもないくせに、と。
紫馬は心の中で呟いてみてから、

「それはまあ、そうなんですが」

同じ台詞を二度続ける。
確実に、会話の主役を取られたと、紫馬は実感していた。

「そうでしょう?
あの時、男に二言は無いって、啖呵切って見せたわよね?
紫馬くんって、若いのにずいぶんとおじさんじみた台詞を吐くんだわーって、感心しちゃったわよ」

かぁっと。紫馬の頬に朱が指した。

「よくそうやって、人の触れられたくない過去を本人の目の前で引きずり出して、おおっぴらに広げて見せ付けることが出来ますねぇ」

「出来るわよ。
人の触れられたくないところにばしばし踏み込んで、手を突っ込んで引っ張り出しすのが、教師の仕事なんだから」

ママは紫煙を吐きながら、ウィンクさえしてみせた。
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