蟷螂(かまきり)の秋
朝に水撒きで、プランターの中をふと覗く。

この間までその辺の弦や土の上を歩いていたはずの蟷螂(かまきり)が、動かずにいる。

昨日は少し中足を動かしていたが、今日は動かない。

複眼の色が黒ずんでいる。

何となく姿を見て予感を感じていたが、彼か彼女は逝ってしまったらしい。



我が家の木瓜(ぼけ=薔薇科)の枝の卵から孵った春。

T字型の小さいなおもちゃのような生き物がそこいらじゅうを歩いていた。

蟷螂の雄雌がよく分からない私は、まだ若い彼か彼女をよく木の枝で見かけた。

大きくなって若緑の立派に姿になった頃、彼か彼女は木の枝で蝉を捕まえた。

私は蝉を気の毒に思って餌を横取りした。

大猟だったのだから、横取りしてしまってから彼か彼女を気の毒に思った。

私は蝉と離れた潅木の上に彼か彼女を連れて行った。

「ごめんね」と話しかけると、首をキュッとこっちに向ける。

水巻を一通り終えて、まだ潅木の上にいる彼か彼女に「今度は邪魔しないからね」と私。

彼か彼女は、やや、斜めに首をかしげるような角度でやはり、キッとこっち向く。

やはりちゃんと聞こえているのだ。

蟷螂は首がよく動くのではっきり分かるが、きっと他の虫にも聞こえているのだろう。
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