輪廻の世界
やけに静か過ぎるから、きっと小さい声でも聞こえてくるんだ。でも、どこから?僕は疲弊した足を立ち上げて廊下の先へ向かった。出来るだけ早く、その声が消えてしまう前に。
「誰かいるの?」
いる、と声を出すと足音が近付いてきた。同じ方向に向かっていたのだろうか、引き返してくるようだ。闇に包まれた廊下の先から見慣れた白いカッターシャツの男が現れる。
「誰も居ないかと思ったよ」
先輩か。白いカッターシャツに黒い髪が映える。こんな先輩、居ただろうか?否、居ただろう。僕がそこまで記憶力がないわけではない。確か3年生で、一番喧嘩の強い…不良だったと思う。名前は確か、
「俺は橘狼牙。君は2年B組の…確か、リン、でしょ?」
わざわざ僕の名前をそうやって呼ぶのは、彼以外に居ないと思っていたけど。まさか居たとは。嫌味だろうか。それよりも、そのあだ名を知っているという方が驚きだ。大体ここに、何で居るんだ。橘狼牙、現在生徒会長でありながら不良としても頂点に立つ、奴。生徒会長がそんなので良いのかと言われればダメに決まっているものの、逆らえばやられると知っているんだろう、教師も。弱い奴ばかりだ。しかし、懸命な判断だろう。