皎皎天中月
「貫婆、節の痛みは引きましたか?」
「ああ、お前の家の膏薬は良く効くよ」
「今日は婆様も店に出ているから、顔を出してくれると婆さんが喜びます」
 貫那と丹祢とは古い付き合いがある。貫那は少ない歯を覗かせてにこにこと笑った。

「父さんはまだいますか」
「いいや、もういないよ」
 貫那は地面を指差した。
「役人が馬で来てね、まるでひっとらえるように恵弾を連れて行ったんだよ」
 ぬかるんだ地面には、蹄の跡が残っていた。
「じゃあ、もう城に」
「そうだねえ」

 貫那が向いた方を、倣って恵孝も向く。大通りの先に、堀を隔てて城門がある。
「そんなに怪我人が出たんですか」
「詳しいことはわからないよ。お役人が来て、城で大事があったから来いって。恵弾は聞いたことを書き留めて、『では後ほど伺います』って言ったら『時間がない』ってさ……」
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