皎皎天中月
 そこに、貞陽が茶を入れて持って来た。身寄りのない少年で、宿居場で寝起きし、城下町の様々な下働きをしている。「街の子」と呼ばれる一人だ。
「ありがとう、貞陽」
 恵孝は礼を言うがお茶を受け取らなかった。
「直ぐに行くつもりだったんだよ」
「あら、引き止めて悪いねえ」
 いいえ、と恵孝は首を降る。貫那の話の続きが聞きたかった。

「それで、要り用なものを記して貞陽を走らせて、自分は馬に乗せられて城に登った、って訳さ」
「お前がうちへ来てくれたのか。ご苦労だったね」
 貞陽はちょこんとおじぎをした。


「じゃあ、行ってらっしゃい。恵弾によろしくね」
 宿居場の前で、再びの見送りを受ける。
「父さんは、しばらく戻れないかも知れないと書いていたんです」
「その辺も含めて、よろしく言っておいとくれよ」
 貫那が困ったように笑った。

 二言三言、言葉を交していると、誰かが宿居場に駆け込んだ。何だろうと思って見ていると、応対した貞陽が貫那に駆け寄ってきた。
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