皎皎天中月
「何のために」
 恵正も声を落として聞いた。意図が分からない。
「お城からは、姫様を働かせたいと言われたよ」
「城と綺与の店の繋がりは」
「直接布を卸すのは、式典の特別な衣装ぐらいさ。この間の、夏の式典の衣装はうちが請け負ったよ」
「間に卸問屋を挟むのは」
「衣装用だけでなくて、日常使いの着物や頭巾、布巾や手拭い用と何でも織っているからね。ほとんど全部さ」
 綺与は私物を入れた荷をまとめる。
「今日も来るのか」
「ああ。初めは、触ればすぐに壊れてしまう綺麗なお人形さんのような娘かと思っていたけど、機織りは気に入ったようさ。筋も悪くない」
「ほう」
「うちの自慢の織り子達は、美味しい飯を食べて、男よりも働き者だからね。そういう織り子に育てて良いのやら」
 困った表情に隠れて、嬉しそうな様子を見せる。

「恵正先生の自慢の息子は、お城に捕えられているんだろう」
「まあ、手紙によると軟禁じゃな。姫様の診察を一度しておる」
 淡々と恵正が答えるので、綺与は呆れた声を出す。
「あまり心配していないようだね」
「頭は悪くないし、御典医が暁晏じゃ。恵弾の兄貴のようなものじゃからな。二人して上手く立ち回るじゃろう」
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