皎皎天中月
「ご苦労さま」
「はい、こちらこそお世話になりました。ごちそうさまでした」
内容を確かめて、一通を貞陽に持たせた。貞陽はそれを丁寧に畳んで、懐に仕舞った。
角路は満足そうに頷いた。さ、と短く言うと、店の表戸を大きく開けて、幟を立てた。布団屋の店開きだ。
恵正は貞陽を連れて、一度自分の家に戻った。今日は昼から診察をするので、店の表戸はまだ内から閉めてある。
細い通路を抜けて母屋に入る。玄関で丹袮を呼び、上がり口に貞陽を座らせた。自分もその隣に腰掛ける。
「とんだ御足労でしたね」
お茶を出しながら丹袮が言う。貞陽もにこにこしている。
「まあな」
「それで、先生のご用は何ですか」
「頼もうと思ったが、儂の手伝いは山歩きじゃぞ。疲れていないか」
貞陽は首を振った。
「いいお布団で寝させてもらいました。朝ご飯もたくさんいただきました。元気です」
「そうか。今朝は綺与が飯番じゃったが、残念そうには見えぬな」
はい、と貞陽は朗らかに答えるので、恵正と丹袮は顔を見合わせて笑った。
「薬草を探したり選んだり、摘んだり運んだりは、全部恵正さんがやるから」
丹袮が言うと、恵正が頷く。貞陽は二人の眼差しが真剣なものに変わったことに気付いて、思わず居住まいを正した。
「一緒に歩いて、この人に何かあったらすぐ知らせに来てほしい」
気迫のある丹袮の言葉に釣られるように、貞陽は大きく首を縦に振った。安堵したように恵正が噴き出した。
「まあ、爺の御守りじゃ。子守りならぬ、爺守り」
「はい、こちらこそお世話になりました。ごちそうさまでした」
内容を確かめて、一通を貞陽に持たせた。貞陽はそれを丁寧に畳んで、懐に仕舞った。
角路は満足そうに頷いた。さ、と短く言うと、店の表戸を大きく開けて、幟を立てた。布団屋の店開きだ。
恵正は貞陽を連れて、一度自分の家に戻った。今日は昼から診察をするので、店の表戸はまだ内から閉めてある。
細い通路を抜けて母屋に入る。玄関で丹袮を呼び、上がり口に貞陽を座らせた。自分もその隣に腰掛ける。
「とんだ御足労でしたね」
お茶を出しながら丹袮が言う。貞陽もにこにこしている。
「まあな」
「それで、先生のご用は何ですか」
「頼もうと思ったが、儂の手伝いは山歩きじゃぞ。疲れていないか」
貞陽は首を振った。
「いいお布団で寝させてもらいました。朝ご飯もたくさんいただきました。元気です」
「そうか。今朝は綺与が飯番じゃったが、残念そうには見えぬな」
はい、と貞陽は朗らかに答えるので、恵正と丹袮は顔を見合わせて笑った。
「薬草を探したり選んだり、摘んだり運んだりは、全部恵正さんがやるから」
丹袮が言うと、恵正が頷く。貞陽は二人の眼差しが真剣なものに変わったことに気付いて、思わず居住まいを正した。
「一緒に歩いて、この人に何かあったらすぐ知らせに来てほしい」
気迫のある丹袮の言葉に釣られるように、貞陽は大きく首を縦に振った。安堵したように恵正が噴き出した。
「まあ、爺の御守りじゃ。子守りならぬ、爺守り」